スタンダードになりつつあるクラウドファーストの落とし穴

メール、ストレージ、情報共有、営業支援など、業務効率化を進めるツールやシステムの多くをクラウド環境で利用している企業は少なくありません。特に最近は、新たなツールの導入や既存システムの移行を検討する際に、まずクラウドサービスを検討する「クラウドファースト」が一般的になりつつあります。

クラウドサービスにはさまざまなメリットがありますが、万能ではありません。そこで今回は、そもそもクラウドファーストとはどういったものなのか、その概要とクラウドファースト一辺倒になってしまうことのリスク、注意点について考察していきます。

いまやスタンダードとなりつつある「クラウドファースト」

冒頭でも触れたようにクラウドファーストとは、企業が新たなツールを導入する際、もしくは既存システムを移行する際に、「まずクラウドの利用を検討すること」を指すものです。このクラウドファーストがスタンダードとなりつつある背景には、企業にとってクラウドサービスを利用するメリットが多いことが挙げられます。具体的には次のようなことが考えられます。

1.コスト削減

自社内にサーバーを設置する必要がなく、管理者も不要になるため、固定費や人件費の削減につながります。また、繁忙期と閑散期の差が激しい業種の場合、繁忙期にはスペックを上げ、閑散期には最低限のスペックに戻すなどの柔軟性があり、運用コストの大幅な削減が可能です。

2.多様な働き方の実現

多くのクラウドサービスはマルチデバイス対応になっているため、モバイル端末や自宅のパソコンからアクセスすることも可能です。その結果、テレワークやリモートワークなどが可能となり、多様な働き方を実現できます。

3.BCP対策

クラウドストレージを活用し、自社データを分散保管することで、地震、台風といった自然災害や伝染病などが発生し、社内で業務を続けられなくなった際のBCP対策につながります。

4.リードタイムの短縮

自社でシステムを構築する場合は、ハードウエアの選択、導入、設定など、実際に利用を開始するまでに多くの時間を要します。これに対して、クラウドサービスであれば、すでに用意されているリソースから最適なものを選択するだけで、すぐに利用を開始できます。このため、リードタイムの短縮を見込めます。

2018年6月には政府も基本方針として、政府においては、新しい情報システムを導入、もしくは既存のシステムを移行する際に、クラウドサービスの利用を第一候補とする「クラウド・バイ・デフォルト原則」を決定しています。これにより、民間企業においてもクラウドファーストの流れはさらに加速しています。

クラウドファーストが必ずしも万能ではない理由

先述したように、クラウドサービスの導入は多くの企業にメリットをもたらします。ただし、必ずしもクラウドファーストが企業の課題解決につながるとは限りません。その理由は次のとおりです。

1.クラウドサービスを導入する目的が明確ではない

クラウドファーストとは、あくまでも「最初にクラウドサービスの導入を検討すること」であり、「必ずクラウドサービスを導入する」ということではありません。そのため、「クラウドサービスの導入ありき」という考えだけが先行してしまい、「クラウドサービスにすることで自社の課題が解決するか」を検討していないケースもあります。その結果、あまり必要でないクラウドサービスを導入してしまい、誰も利用していないにもかかわらず、費用だけを払い続けるといった状況になってしまう場合があります。

2.業種、業務内容によってはクラウドが合わない場合もある

クラウドサービスは低コストで運用できるのがメリットのひとつですが、カスタマイズ性は乏しく、特殊なツールを活用する業種、企業にとっては、クラウドサービスでは対応できない可能性もあります。また、膨大なデータ容量を必要とする業務や、同時に多くの回線を必要とする業務は、クラウドにすることで逆にコストが上がってしまうケースも少なくありません。

3.すべてをクラウドにすることのセキュリティリスク

クラウドサービスの提供会社にもよりますが、多くのクラウドサービスはセキュリティ対策に膨大な予算をかけているため、自社でデータを管理するよりも安全なケースが増えています。しかし、すべてをクラウドにしてしまうことは、突然のサービス停止のような場合に、「自社の情報を自社で管理することができなくなる」といったリスクがあります。また、万が一情報漏えいが起きた場合、自社内であれば流出経路を容易に特定できますが、クラウドサービスの場合、特定しづらくなることも大きなリスクです。

4.処理速度が遅く、業務スピードが低下してしまう場合も

大容量のデータ保管にクラウドストレージを利用する場合、選択肢は大きく分けて2つあります。複数の企業や団体、個人でサーバーを共有する「パブリッククラウド」と、一社だけでサーバーを専有する「プライベートクラウド」です。コスト削減を目的としている場合、パブリッククラウドが第一候補になりますが、複数で利用するため処理速度が遅くなり、業務スピードが低下する、というデメリットがあります。一方d、業務スピードを上げるためにプライベートクラウドを選択すれば、今度は多大なコストがかかり、クラウドサービスを利用する目的(コスト削減)が果たせなくなってしまいます。結果として、どちらを選択しても課題解決にはつながらないケースもあります。

社内で情報管理を行うことの重要性

クラウドサービスのメリットとデメリットを踏まえたうえで、実際に新たなツールの導入をする際に考えなければならないことは、「クラウドファーストはあくまでも検討事項であり、決定事項ではない」ということです。まずは、自社の課題を洗い出し、その解決手段として「本当にクラウドサービスが最適な選択なのかどうか」を十分に検討する必要があります。

もちろん、どのような企業であれ、メールや一般的な業務支援ツールはクラウドサービスを利用した方がメリットも多く、業務効率化につながるでしょう。しかし、データウェアハウスやデータレイクのように大量のデータを保管・分析する場合や、自社の管理下で自社がコントロールすべき根幹となるデータに関しては、社内で管理する方がメリットは多くなります。クラウドサービスを活用した場合、かえって業務が非効率になる、万が一の際に自社で情報をコントロールできなくなる、などのリスクが発生する可能性があるためです。

クラウドサービスのメリットばかりに目が行ってしまい、社内で情報を管理することの重要性を見落としてしまうと、企業として大きな損失につながることも少なくありません。

まとめ:クラウドファースト一辺倒は危険、適材適所でオンプレミスと使い分けることが重要

ひと口に「クラウド」といっても、その種類は多種多様です。最近は、情報漏えいのようなリスクはかなり軽減していますが、それでも選択を間違えると多大な損害を受けてしまう可能性があります。また、業種やツール、システムによっては、必ずしもクラウドが適しているとは限らない場合もあります。にもかかわらず、「クラウドファーストありき」で検討を進めると、結果として、再びオンプレミスに戻す羽目になり、かえってコストがかかってしまうケースもあります。

重要なことは、クラウドファーストにこだわりすぎず、「自社の課題解決には何が最適か?」を考えることです。そして、適材適所でクラウドとオンプレミスを使い分けるようにすると、双方のメリットを最大限に活かすことができます。その結果、業務効率化や生産性向上を実現できる可能性も高まることになります。


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